アルカリイオン水の効用の検証
緒言
”医療と水”、これは古くより重要な関わりをもってきたが改めてとりあげられることは少なかった。水は、いろいろな面で医療と関わってきたがここでは飲用水の面より考えてみたい。かつて飲用水の多くは川水あるいは地下水を用いていた。飲用水は水量が豊富であり、安価であることが第一であり、その条件を満たしていた。しかしながら、川水、地下水は汚染されやすい状態にあり、飲水を介した経口伝染病が時として問題となった。そのため川水を消毒し安全性を高め、伝染病を予防する目的で上水道が整備され、多くの経口感染症の予防が達せられ、水道水は豊富で、安価でかつ安全であることより飲用水としての地位を認知されるところとなった。
近年、水の生体に与える影響が様々な分野で論議される中、飲用水においても豊富、安価、安全の3条件のみならず、おいしい水であること、体に良い(無害)水であることのより積極的な条件が付加価値として求められるようになった。その中で水道水から容易に生成され、健康との関わりも示唆されているアルカリイオン水(電解機能水、アルカリイオン水、アルカリ還元水)が注目の対象となりつつある。
わが国で開発された独自のアルカリイオン水は、種々の腹部愁訴に対する効能を有する唯一の飲用水であり、健康の維持・増進、そして疾病の予防・改善にもその効用が期待されている。アルカリイオン水の効用の優れた傍証はこれまでいくつかなされてきたが、その時代的背景もあり、それらは今日的論拠には不充分であるとする気運が高まり、アルカリイオン水効用に対する信憑性への疑問とともに今日的科学的検証が要望されるに至った。
これらの背景をもとに、平成5年アルカリイオン水整水器委員会が組織され、アルカリイオン水の生体に与える影響につき検証が試みられてきた。本内容はそこで検討されたもので、第一にアルカリイオン水の臨床的検証、第二にアルカリイオン水の物性の解析、第3にアルカリイオン水の生体に与える影響の基礎的検証の三本柱よりなっている。各研究ともそれぞれ顕著な成果がみられつつあり、今後、医療の分野で電解機能水がどのような役割を果たしていくのか期待されるところである。ここでは、研究の現状を紹介とするが、電解機能水の有効性を展望する中、さらなる研究の発展が望まれるところである。
アルカリイオン水の性質と安全性
小久見 善八(京都大学大学院工学研究科)
菊地 憲次(滋賀県立大学工学部)
水道水またはそれにカルシウム塩を添加した“水”をカソード(陰極)で電気分解して得られるアルカリイオン水を製造する装置であるアルカリイオン整水器は今日では主として流通方式(フロー式)の装置が市販され、非常に使いやすくなっている。この整水器にもいろいろな材料が使われるようになっている。そこで、整水器から溶出する物質と、整水器中で生成する可能性のあるトリハロメタン類を中心に安全性について物性を中心に調べた。
1.安全性
市販されているフロー式のアルカリイオン整水器の大多数は図1に示す構造をしている。水を電気分解してアルカリ性の水を得るのであるからカソードで還元反応が進行して水素が発生してアルカリ性になるとともに、アノード(陽極)では水が酸化されて酸素が発生して酸性水が生成する。アルカリ水と酸性水が混ざって中性水になることを防ぐために隔膜が間に設けられている。この際、塩化物イオンが含まれるとこれが酸性水側で酸化を受けて塩素となる。フロー式の整水器の多くは、機器のメンテナンスと清浄化のために、時々電源からのつなぎ方を変えて極性を反転させて、本来ならカソードとして働く電極をアノードに、アノードをカソードになるようにして短時間電気分解をする。この逆通電の影響についても調べてみた。
整水器の材料
白金被覆チタン電極と一部で使われているフェライト系の電極を試験の対象とした。これらの電極を備えた図1の試験用モデル装置を作成し、アルカリイオン水を分析した。白金被覆チタン電極では重金属などの溶出の問題は認められなかった。フェライト電極を用いた場合にも、アルカリイオン水生成時には重金属の溶出は問題とならない。しかし、洗浄のための逆通電時には微量の重金属の溶出が見られる。逆通電後に通水だけを行うことによってこの溶出した重金属は洗い流され、正規運転時には問題とならない。なお安全を期するために白金被覆チタン電極などへ転換することが望ましい。
電極の試験に加えて、電極以外の配管チューブ、ガスケット材、ハウジング材などの主なものについてアルカリイオン水への浸漬試験を行ったが、問題となる物質の溶出は見られなかった。
アルカリイオン水中の副生成物
アルカリイオン水整水器に導入される水に塩化物イオンが含まれると、これがアノードで酸化されて塩素が生成し、水に含まれる微量有機物などと反応して有機塩素化合物を生成することが懸念される。とくに、塩基性の条件の下でハロホルム反応によってトリハロメタンなどが生成する可能性がある。
整水器の普通の状況ではハロホルム反応は進行しないが、隔膜を通って塩素を含む酸性水がアルカリ水側に移動してくると、ハロホルム反応の条件が出現してトリハロメタン類が生成することがある。図1の試験装置を工夫して酸性水側からアルカリ水側に流れを起こして調べたところ、トリハロメタン類が有害とされる濃度を越して上昇した。電気分解をすると使用する隔膜の特性によっては電気浸透が起こって酸性水がアルカリ水側に移動することがある。しかし、実際のアルカリイオン整水器を数種類調べた結果、電気浸透流の大きい装置はなく、また、電解部分への水の流入と電解水の流出を工夫してアルカリ水側から酸性水側へ流れが生じるように工夫されており、ハロホルム反応の条件にはならず、トリハロメタン類の生成は認められなかった。
なお、製品をより安全にするために、工業会に報告し、製品安全基準の刷新を行わせた。
2.アルカリイオン水の性質
アルカリイオン水の性質については電気分解の化学からはまったく新規である説がいくつか提出されているが、試験結果では、従来の電気分解の学問の枠を超える性質は認められなかった。すなわち、電気分解によってカソード側であるので水素が発生し、それに伴ってカソード付近の水がアルカリ性になる。